
こんにちは、稗田利明です!
北海道文化放送(UHB)は、地方テレビ局としていち早く報道現場に生成AIを導入し、記事制作の効率化に取り組んできた。DX推進センターの杉本歩基氏は、AWSユーザー会「AI Builders Day」で、アナログ作業が多い現場にAI基盤を組み込んだ経緯や成果、そして新たに浮かび上がった課題を紹介した。
出発点となったのは、FAXで月1500件届く官公庁・企業のリリース確認や、取材後の文字起こしといった記者の負担が大きい業務である。杉本氏は、FAXをAmazon SESで受信し、Vision APIのOCRでテキスト化、Amazon BedrockのLLMでタイトルや要約、ジャンルを自動生成し、Amazon DynamoDBに蓄積する仕組みを構築した。これにより、リリースは検索可能なデータベースとなり、要約を見て素早くニュース価値を判断できるようになった。
さらに、画像・ドキュメントはLLMで、音声や動画はAmazon TranscribeでSRT形式の字幕データに変換し、動画はPegasusでタイムライン別要約やハイライト抽出を行うワークフローも整備した。当初はPegasus単体での解析精度に課題があったが、TranscribeによるSRTを補助的に与えることで改善し、動画に字幕が付くだけでも現場の評価は高かったという。アウトプット側では、こうしたインプットの解析結果に加え、追加取材内容や特記事項を入力し、ボタン一つで原稿を生成する仕組みを整えた。ヒグマ出没情報や交通機関の速報など、用途に応じた専用プロンプトも用意されている。生成される原稿は、Claude Opus 4.5が素のまま出した「スピード重視の原稿」と、AIエージェントが過去記事検索や文体解析、校正まで行った「質を高めた原稿」の2種類で、記者が状況に応じて使い分ける設計だ。エージェント基盤は当初Bedrock Agentsを用いていたが、マルチエージェントの保守性を考慮し、現在はBedrock AgentCoreに移行している。
特徴的なのは、生成AIの利用をチャットUI中心にしなかった点である。「AIにチャットしている暇はない」という現場の声を踏まえ、裏側にAIを埋め込み、記者が意識せず使えるようにすることで、業務フローに自然に溶け込ませた。生成後に精度を高めるチャットUIも用意はしているが、多くの記者は直接手で原稿を修正する運用になっている。また、原稿生成中はストリーミング表示を避け「生成中」とだけ表示し、その間にほかの作業へ移れるようにするなど、細かなUI面の工夫も施した。
この仕組みを2024年に大枠として構築し改善を重ねた結果、Web記事数は2023年比で16.8%増加し、ページビューも13.3%伸びた。チーム人員が削減される中での数字であり、生成AIの導入効果は明確に表れている。かつて生成AIに懐疑的だった上層部も、こうした成果を評価し、杉本氏の取り組みを人事考課に反映するまでになった。
一方で、想定外の負荷増大も生じている。特に夜勤経験が浅い記者では記事本数が10倍に増えたケースもあり、原稿チェックを担うデスクの業務量が“10倍”に膨らんでしまった。報道機関として欠かせない校正やファクトチェックの工程がボトルネックとなり、「デスクが火を噴いている状態」だという。杉本氏は、今後は校正・検証作業を補助する仕組みづくりが急務だとし、イベント参加者にも知恵を求めてセッションを締めくくった。